#3 『LUNATICPANDORA』 05


 土屋邸09:17 p.m

チャーリー:なんで僕の家なんデスか?

金太郎:そりゃ、広いし、食べたり飲んだりし放題だからや。

二葉:「もうちょっと待ってね。もうちょっとで、来ると思うから」

チャーリー:「誰を呼んだんデス?」

二葉:「織葉」

一真:「新崎を呼んだのか?」

二葉:「だってたぶん、織葉はすべてを知ってるから。……あたしたちが知らないことも、知らなくてもいいことも」

GM:そのとき、呼び鈴が鳴る。

チャーリー:「来たみたいですね」
 

 新崎織葉は、学校での印象と全然違っていた。

 眼鏡を取った彼女はとても美人で……それでいてどこかほえっとした雰囲気を持っている。

 織葉は、細かい装飾をしてある箱を小脇に抱えていた。
 

金太郎:「新崎がこんなに美人やなんて、知らんかった……」

チャーリー:「僕もデース……」

金太郎:「一真は、知っとったんか?」

一真:「どうでもいいだろ、そんなこと。それより早く、事情説明してやれよ」

GM:じゃ、織葉に説明したつもりで、話してもらおうかな。

涼:時が戻った。同じ3日間を繰り返している。

チャーリー:『フォーチュン・ストーン』という欲望を増幅させる石のせいで、おかしくなった人がいマス。

金太郎:生徒が突然キレたりしたな。

浩之介:行方不明の生徒がいたり。平が死んだり。

GM:それから?

涼:他に何かあったっけ?

GM:よく思い出してごらん。日常ではありえないことが、いろいろあったでしょ。

隆志:2−Aの前で変な声を聞いた。『金三(キンゾウ)』だっけ。地名か人名みたいな。

GM:カナゾウだってば。──他の人は? チャーリーはたぶん分からないと思うけど、涼や金太郎は、絶対気づくと思うんだけどなぁ。

涼:……なんだ?

金太郎:……さあ。

チャーリー:ホントに覚えてないデスか? 僕でも覚えてるのに……。

GM:あっただろ? ほら、部活で。

涼:あ、あああああ、ヤケドか。

GM:金太郎は、授業中。ヒント、居眠り。

金太郎:……落書きか? 眼鏡みたいな。

GM:そう。

織葉:「あなたたちと二葉は……たぶん、同じといえば同じモノたちでしょう。つまり……『特殊能力』の持ち主です」

金太郎:「特殊能力やと?」

織葉:「ええ。その力は非常に抽象的で、個人差があるモノです」
 

 ここで、織葉は涼をじっと見つめた。
 

織葉:「あなたの能力は……『痛みを完全に消せる』というものです」

涼:「なるほど」

織葉:「成瀬君の能力は、『眠っているときに“敵”を描ける』」

金太郎:「へえ」

織葉:「結城先生の能力は、『一瞬過去が聞こえる』」

結城:「ふむ」

チャーリー:「僕にも……あるんデスか?」

織葉:「あなたのは……『集中すると喜怒哀楽が移せる』能力です」

チャーリー:「はあ?」

GM:栞を抱き締めたとき、彼女の落ち着きを取り戻したことがあったでしょ?

チャーリー:げ、あれか……。

浩之介:ほとんど反則だぞ、それは。……わしは?

GM:君のは、『いつも“かなしみ”を夢に見る』能力。

浩之介:あの……夢か……。
 

 そのとき──一真のケイタイが鳴った。
 

一真:「もしもし、ああ、信也か。今どこだ? まだ東京? お前、まだ遊んでんの? ……え、あ、ああ、そりゃそうだ、あれは平日じゃないとダメだろ。お前、知らなかったの? マジ? ……だせー。ああ、早く帰ってこいよ。うん、うん、ああ、それじゃな」

チャーリー:信也って、あの金髪でロンゲの?

GM:そうだよ。

チャーリー:今のも、伏線?

GM:そうだよ。

隆志:思い出した。あの声、七曲信也の声だ。

GM:そして小沢の『集う』という言葉。……さ、以上のことを頭に入れて、今回の一連の事件の謎を解いてくれ。

一同:えええええ〜!

GM:『時が繰り返す』ことは、ちょっと頭から外しておいていいや。──さて、分かるかな?

GM:それじゃ、考えていってみようか。とりあえず君たちの『敵』を突き止めるためのヒントは2つ。眼鏡と思われる絵と……『カナゾウ』という、とある言葉の一部。

隆志:それは2−Aの七曲信也の声だった。彼は土日に東京に遊びにいってて……。──分かった気がする。敵も、石のことも。

GM:お、分かったか。(こっそり答えを聞いて)そのとーり、隆志、正解。

チャーリー:ホントに分かったデスか? すごいデース……。──信也が言ってたことは……『オレもやっちゃおうかな』みたいなことデシタ……よね? うーん……。
 

 みんな、ずいぶんと長い間、あれこれ考えた。
 

GM:最初っから思い出してみたら?

浩之介:最初って……加藤チャゲとタモリが東京湾に浮いてて……

金太郎:──って、まさか『敵』って、タモリ?

涼:確かにアイツは眼鏡──サングラスだが、じゃあ『カナゾウ』は?

GM:平日だったら大丈夫なのに、土日だとやってない、東京新宿といえば……?

チャーリー:『笑っていいとも!』……? ……っていうか、『笑っていいかな?』!?

金太郎:え、あれって『笑っていいかも』やろ?

隆志:それは金太郎が後から言ったことで、GMが言ったのは、『笑っていいかな?』だよ。

チャーリー:じゃあ『カナゾウ』って……

GM:『笑っていいかな?』──

チャーリー:──『増刊号』!?

金太郎:確かに『増刊号』は録画したヤツやから、日曜にアルタに行ってもあかんなぁ……。

涼:まじ……? でもタモリが敵って、どういうことだ……?

GM:石のことも忘れないでね。

隆志:実は、これが『高校生TRPG』だというのが、最大の嘘なんだよ。

GM:そうだね。最初の方で、隆志が正解言っちゃったんだよね。

チャーリー:『フォーチュンストーン』が……『輝石』?

GM:『輝石』には……というか、『大いなる遺産』には、どんな『力』があった?

涼:『願い』を叶えるんだろ?

チャーリー:そして人の欲望を……AHAHAHAHAHAHAHAHAHA!(爆笑)

GM:分かったみたいだね。タモリと加藤チャゲが異世界『イーゼリア』から持ってきてしまい、東京湾上で砕け散った『輝石』のかけら──それが『フォーチュンストーン』の正体。
 

 それは、遠い遠い異世界でのおはなし。

 そこには、神様の力を宿した『石』がありました。

 その『石』には不思議な力があり、人々の『願い』を叶えてくれます。

 でも心の弱い人間は、『石』の力によって自らの醜い心を暴走させてしまいました。
 

GM:詳しくは『MONDリプレイ第三部』を読んでもらうことにして……まあ、そういうこと。もちろん『輝石』には『願い』を叶える力なんてないんだけど、人の心をグラッと動かすぐらいの力はあったんだね。特に、『こっちの世界』の人間たちにはよく効いたみたいで。

涼:「にわかには信じられんが……つまり、この『石』は異世界のモノなんだな?」

織葉:「そうです、この世界にあってはならないモノなのです」

金太郎:「小沢の言っとった『集う』ってのは何やったんや?」

織葉:(『石』を手にとって)「この『石』そのものの『願い』……『より多くの“想い”を自分のもとへ』と『石』自身が願ったのだと言ったら……信じますか?」

涼:「そうなんだと言われたら、そうなんだろうな……。すぐに納得はできんが」

隆志:「異世界に持ち込まれたり、人の──地球人の心に触れたりしたせいで、『石』が変質したのかもしれんしな」

涼:「で、どうしたらいいんだ? まさかこれで終わりってワケじゃないだろ?」

織葉:「『石』の核となる部分があるはずです。その核を……この『匣』に封じます」
 

 織葉は、ひざの上の『匣』を、テーブルの上に置いた。
 

二葉:「きれいな箱だね……」

織葉:「『パンドラの匣』よ……からっぽだけど」

金太郎:「で、その『核』がどこにあるか、分かっとるんか?」

織葉:「それは成瀬君の『力』が教えてくれてるわ。『石』をこの世界にもたらし、眼鏡をかけたもうひとりの人物──」

一同:「加藤チャゲか!」
 

 その後……話し合った結果、加藤チャゲのコンサートに乗り込むことになった。

 『明日』が10月6日でも、9日でも、だ。

 チケットは……チャーリーが金の力で何とかすることにしたらしい。
 

二葉:「それじゃ、また『明日』ね」

涼:「なあ」

織葉:「はい?」

涼:「あんたは全てを知っていた。なのに、なんで今まで力を貸してくれなかったんだ?」
 

 織葉は微笑み……何も答えなかった。

 千歳高校男子寮食堂09:20 p.m.

浩之介:「ここまで連れてきたのはいいが……どうしよう、この子。とりあえず……どこか行かないように見張っておくか。目を離すとすぐにどこか行こうとするからな。……でも……どこの子なんだ?」
 

 浩之介は気づいていなかった。その子が、行方不明になっていた女子生徒であることを。

 そして浩之介はたぶん一生気づかない。

 彼が彼女を保護したおかげで、時の繰り返しが終わったことを。

 生徒が誰ひとり傷つかない、平和な3日間がやっと訪れたことを。


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