MOND REPLAYV外伝:07

 夢を見た。
 

 夕日の丘で。

「思い出がないなら、オレのをくれてやる。お前を怖がらせる『力』があるなら、オレがもらってやる」

 柔らかい、子供の唇の感触。
 

 そんな夢だ。

・4000年前 空中都市アールマティ 離宮の地下

***:「王子……アル王子……」
 

 王子? アヴァロン王子?

 ああ……それは……『僕』の名前……

 『僕』を……呼ぶ声……

 この声は……
 

タナトス:「……ヒイラギ……?」

ヒイラギ:「王子! 気がつきましたか?」

タナトス:「僕は……ヒイラギ……何でここに……ここは……?」

ヒイラギ:「そんないっぺんに尋ねられても困ります。……ここは、離宮の地下にある秘密の部屋です。ここまで運んでくるの、大変だったんですから」

タナトス:「そうか……ありがとう、ヒイラギ。……いや、そうじゃない、君は、確か破壊されて……」

ヒイラギ:「私、バックアップです。“ここ”に、データを保存してあったんですよ」

タナトス:「そうか……そうだったんだ……」
 

 僕は……まだひとりぼっちじゃなかった……
 

タナトス:「そうだ、ユナは? 僕の傍にいたはずだけど……」

ヒイラギ:(黙って首を横に振る)

タナトス:「バカな……一体どうなってるんだ……?」
 

 それより……まだ聞くこと、たくさんあるだろ?
 

タナトス:「そうだな。──今、世界はどうなってる?」
 

 ヒイラギは語ってくれた。

 ソフィアの『疫風』はまだ止まっていないこと。

 南キャンバス大陸の外に逃げ出そうとした『ヒーメル』たちは、『結界』に阻まれ闇に消えたこと。

 生き残った王の血を引く一族は、自らの『身体』を封印し、宇宙へ逃れたこと。

 命あるものたちが、消えていく恐怖。

 静かな……地獄。
 

ヒイラギ:「これから、どうします?」

タナトス:「ヒュプノス、ネメシス、アルゴスの行方を探す。それから──」

ヒイラギ:「はい?」

タナトス:「俺はもう、『アヴァロン』じゃないから」
 

 いこう……もう一度、女神を復活させるために……

 きっとソフィアはまだ、どこかで泣いているはずだから……

・テーレ1136 “最後の楽園”ニャルラトホテプ 『女神の塔』が半分沈んだ湖のほとり

フレイヴス:「変異してしまった人たちを元に戻すのは難しい。だが、『光』の流出を止めることはできる」

ゼナ:「それは……」

フレイヴス:「『力』の制御──すなわち、女神オファニエルの復活。……リューセ、お前が『神』になるんだ」

リューセ:「ほ……ほえ……?」

フレイヴス:「今から『儀式』を行う。──カー、うちの嫁さんと娘たちをここに呼んでくれ。それからクックルックルーフたちはここに残れ。ユナもだ。――ゼナとサリースは『船』で街を回れ」

ゼナ:「分かりました。エスペルプレーナ2で、ガンバります」

フレイヴス:「『アイオーン』は、そのサポートだ。──頼んだぞ、“初めて”の命令だ」

シェオール:「了解」

トパーズ:「みんなを、救ってきます」

フレイヴス:「アルバス……お前は、どうする?」

アルバス:「オレは、頼まれればいくさ。だがそのときどこに手がないといけないかというと──」

リューセ:「残ってほしいけど……やっぱり、みんなといって、アルバス」

アルバス:「いや、だからそう思うならまず誠意をだな……」

リューセ:「はよ、いけッッ!」 (蹴り)
 

 エスペルプレーナ2が、空へ飛び立つ──『箱舟』となるために。
 

フレイヴス:「さ、『女神復活』には時間がかかるぞ。……覚悟は、いいな?」
 

 フレイヴスはニヤリと笑い、リューセの肩に手をおいた。
 

フレイヴス:「タナトス……『箱』の準備は?」

タナトス:「ああ……大丈夫だ」

フレイヴス:「始めよう……。お前やネメシス、そしてヒュプノスの『願い』を叶えるために。大切な人に……かなしい思いをさせないために」

・4000年前 空中都市アールマティ 魔法科学研究所

タナトス:「なあ、ヒュプノス……」

ヒュプノス:「……なんだ?」

タナトス:「まさか、魔法科学の研究所に、こーんな“非科学的”なものがあるとは思わなかったよな」

ヒュプノス:「そういうことは、助かってから言うんだな……」
 

 目の前の床には、『呪術』用の魔法陣が描かれている。

 幽閉されたネメシスを救うため……タナトスとヒュプノスとアルゴスは、魔法科学研究所へ乗り込んだ。

 そして捕まり……宙づりにされてしまったのだ。
 

タナトス:「鎖が手に食い込んで痛いし……アルゴスは気絶したままだし……」

ネメシス:「ごめんね、私のために……」
 

 同じように宙づりにされたネメシスが、言った。
 

ヒュプノス:「気にするな、ネム。お前のせいじゃない」

タナトス:「そうそう、ヒュウがとろいのが悪いんだから」
 

***:「無駄口をたたくのも、そこまでにしておくんだな……」
 

 聞き覚えのある声に、タナトスは顔を上げた。
 

タナトス:「ゲオルギウス……! お前かッ!」

ゲオルギウス:「久しぶりですね、王子。……いや、タナトスだったか」

タナトス:「こんなとこでお前……。──……お前なのか……? お前のせいなのか……?」

ヒュプノス:「こんなところで、何をしている」

ゲオルギウス:「ボランティアだ」

ヒュプノス:「なに?」

ゲオルギウス:「『ヒーメル』たちの願いを、叶えてやっているのだ」
 

 その言葉と同時に生じる、たくさんの気配。

 言いようのない『予感』に、タナトスの背筋が凍る。
 

ネメシス:「ヒト……なの……?」
 

 『液体人間の融合体』としか言いようのない“モノ”が、近づいてくる。
 

ヒュプノス:「これは……『C.L.R』か……ッ!」

ゲオルギウス:「その通り。前回のは失敗作だったが……今度のはもっとヒドイ。……欲望そのもののような、卑しい存在だ」
 

“喰ろうてやろうか……”
 

 ずるり……、とネメシスに這い寄っていく。
 

“心も体も辱めたあと、喰ろうてやろうか……”

“我が一部として、永遠を生きるか……”

“喰ろうてやろうぞ……”

“まこと……まこといい女じゃ……。うまそうだ……”
 

 ぬるぬるした『手』を、ネメシスにからめていく。
 

ネメシス:「イ、イヤァッッ!!」

タナトス:「やめろォッ! このッやめろォォッ!!」
 

 ガチャガチャと鎖が鳴る。こすれて、血がにじむ。

 そのとき、ヒュプノスの手から冷気が放たれた。

 凍りついた『C.L.R』が、たまらずネメシスから『手』を離す。
 

ヒュプノス:「いいかげんにしろ。──ゲオルギウス、こんなことが、お前のやりたかったことなのか?」

ゲオルギウス:「私じゃない、『彼ら』のやりたいことだ」

タナトス:「………………」

ゲオルギウス:「私が欲しいモノは……もう手に入れた」
 

 アルゴスの鎖が断ち切られ、まだ子供の姿のアルゴスがゲオルギウスの手の中に落ちる。
 

ネメシス:「アルゴス! アルゴスを返しなさい!」

ゲオルギウス:「そうはいかない。……今、『混沌<カオス>』について研究していてね。何でも融合してみるのが楽しくてしょうがないのだ。『C.L.R』に『ネフィリム』、それから……『女神の心臓』を融合してみれば、いったいどうなるか……興味はないか?」

タナトス:「『女神の心臓』ッ! ユナを連れ去ったのはお前か! ユナはどこにいる!」

ゲオルギウス:「さあね、どこかに混ざっているのではないか?」

タナトス:「ゲオルギウスぅッ!」

ゲオルギウス:「私の出番はここまでだ。……あとは、そいつらがやりたいようにやる」

ヒュプノス:「……貴様……何を企む……?」

ゲオルギウス:「『混沌』から何が生じるか、見たいだけさ。──……このことは、私の『子供』たちには伝えないでおいてあげるよ。これは……『私』だけの思い出だ」
 

 アルゴスを抱えたゲオルギウスが、扉の向こうに消える。扉が、閉まる。
 

“さあ……宴の始まりだ……”
 

 僕たちは、『ヒーメル』たちの欲望と怨念の渦の中へ投げ込まれた。

 僕たちは……呪われた。

 僕の記憶は、そこで途切れている。

 次に覚えているのは……もう、ほんの100年ほど前のことからだけだ。

 それが……僕にかけられた『呪い』だから。

・テーレ1111 空中都市アールマティ 女神オファニエルの神殿の地下

フレイヴス:「ここか? お前のお仲間が『封印』されてるって場所は」

タナトス:「ああ」

フレイヴス:「“あの”儀式のときに呪われた、3人の『ネフィリム』のうちのひとりか……」

タナトス:「儀式?」

フレイヴス:「儀式というか、実験というか……『ヒトのはじまり』の話さ」

タナトス:「ヒト……南キャンバス大陸人……?」

フレイヴス:「『ネフィリム』の子供と『女神の心臓』を“核”とした『混沌のC.L.R』というべきもの──そこから分かれ、生まれたのがクックルックルーフとヒトゲノム──南キャンバス人だった。……ある意味、最も神に近い『クックルックルーフ』と、『ヒーメル』への潜在的恐怖心から空を飛ぶことを忘れた哀れな『ヒトゲノム』のはじまりの話だ」

タナトス:「………………」

フレイヴス:「で……誰がその儀式を行ったのか……そのデータだけが、どこにも残っていない」

タナトス:「………………」

フレイヴス:「──着いたようだ。確かに、強力な『封印』が施されているな」
 

 扉の向こう……

 この扉の向こうに、ネメシスがいる……

 呪われ、封印され、魔力の『糧』とされてきた。

 そうやって、数千年の時を生きてきた……ネメシス。
 

フレイヴス:「さ、いこうぜ──捕らわれの姫を助けに、な」
 

 ネメシス……

 僕たちの戦いは……またここから始まったのかもしれないね。



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