夢を見た。
夕日の丘で。
「思い出がないなら、オレのをくれてやる。お前を怖がらせる『力』があるなら、オレがもらってやる」
柔らかい、子供の唇の感触。
そんな夢だ。
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・4000年前 空中都市アールマティ 離宮の地下
***:「王子……アル王子……」
王子? アヴァロン王子?
ああ……それは……『僕』の名前……
『僕』を……呼ぶ声……
この声は……
タナトス:「……ヒイラギ……?」
ヒイラギ:「王子! 気がつきましたか?」
タナトス:「僕は……ヒイラギ……何でここに……ここは……?」
ヒイラギ:「そんないっぺんに尋ねられても困ります。……ここは、離宮の地下にある秘密の部屋です。ここまで運んでくるの、大変だったんですから」
タナトス:「そうか……ありがとう、ヒイラギ。……いや、そうじゃない、君は、確か破壊されて……」
ヒイラギ:「私、バックアップです。“ここ”に、データを保存してあったんですよ」
タナトス:「そうか……そうだったんだ……」
僕は……まだひとりぼっちじゃなかった……
タナトス:「そうだ、ユナは? 僕の傍にいたはずだけど……」
ヒイラギ:(黙って首を横に振る)
タナトス:「バカな……一体どうなってるんだ……?」
それより……まだ聞くこと、たくさんあるだろ?
タナトス:「そうだな。──今、世界はどうなってる?」
ヒイラギは語ってくれた。
ソフィアの『疫風』はまだ止まっていないこと。
南キャンバス大陸の外に逃げ出そうとした『ヒーメル』たちは、『結界』に阻まれ闇に消えたこと。
生き残った王の血を引く一族は、自らの『身体』を封印し、宇宙へ逃れたこと。
命あるものたちが、消えていく恐怖。
静かな……地獄。
ヒイラギ:「これから、どうします?」
タナトス:「ヒュプノス、ネメシス、アルゴスの行方を探す。それから──」
ヒイラギ:「はい?」
タナトス:「俺はもう、『アヴァロン』じゃないから」
いこう……もう一度、女神を復活させるために……
きっとソフィアはまだ、どこかで泣いているはずだから……
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・テーレ1136 “最後の楽園”ニャルラトホテプ 『女神の塔』が半分沈んだ湖のほとり
フレイヴス:「変異してしまった人たちを元に戻すのは難しい。だが、『光』の流出を止めることはできる」
ゼナ:「それは……」
フレイヴス:「『力』の制御──すなわち、女神オファニエルの復活。……リューセ、お前が『神』になるんだ」
リューセ:「ほ……ほえ……?」
フレイヴス:「今から『儀式』を行う。──カー、うちの嫁さんと娘たちをここに呼んでくれ。それからクックルックルーフたちはここに残れ。ユナもだ。――ゼナとサリースは『船』で街を回れ」
ゼナ:「分かりました。エスペルプレーナ2で、ガンバります」
フレイヴス:「『アイオーン』は、そのサポートだ。──頼んだぞ、“初めて”の命令だ」
シェオール:「了解」
トパーズ:「みんなを、救ってきます」
フレイヴス:「アルバス……お前は、どうする?」
アルバス:「オレは、頼まれればいくさ。だがそのときどこに手がないといけないかというと──」
リューセ:「残ってほしいけど……やっぱり、みんなといって、アルバス」
アルバス:「いや、だからそう思うならまず誠意をだな……」
リューセ:「はよ、いけッッ!」 (蹴り)
エスペルプレーナ2が、空へ飛び立つ──『箱舟』となるために。
フレイヴス:「さ、『女神復活』には時間がかかるぞ。……覚悟は、いいな?」
フレイヴスはニヤリと笑い、リューセの肩に手をおいた。
フレイヴス:「タナトス……『箱』の準備は?」
タナトス:「ああ……大丈夫だ」
フレイヴス:「始めよう……。お前やネメシス、そしてヒュプノスの『願い』を叶えるために。大切な人に……かなしい思いをさせないために」
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・4000年前 空中都市アールマティ 魔法科学研究所
タナトス:「なあ、ヒュプノス……」
ヒュプノス:「……なんだ?」
タナトス:「まさか、魔法科学の研究所に、こーんな“非科学的”なものがあるとは思わなかったよな」
ヒュプノス:「そういうことは、助かってから言うんだな……」
目の前の床には、『呪術』用の魔法陣が描かれている。
幽閉されたネメシスを救うため……タナトスとヒュプノスとアルゴスは、魔法科学研究所へ乗り込んだ。
そして捕まり……宙づりにされてしまったのだ。
タナトス:「鎖が手に食い込んで痛いし……アルゴスは気絶したままだし……」
ネメシス:「ごめんね、私のために……」
同じように宙づりにされたネメシスが、言った。
ヒュプノス:「気にするな、ネム。お前のせいじゃない」
タナトス:「そうそう、ヒュウがとろいのが悪いんだから」
***:「無駄口をたたくのも、そこまでにしておくんだな……」
聞き覚えのある声に、タナトスは顔を上げた。
タナトス:「ゲオルギウス……! お前かッ!」
ゲオルギウス:「久しぶりですね、王子。……いや、タナトスだったか」
タナトス:「こんなとこでお前……。──……お前なのか……? お前のせいなのか……?」
ヒュプノス:「こんなところで、何をしている」
ゲオルギウス:「ボランティアだ」
ヒュプノス:「なに?」
ゲオルギウス:「『ヒーメル』たちの願いを、叶えてやっているのだ」
その言葉と同時に生じる、たくさんの気配。
言いようのない『予感』に、タナトスの背筋が凍る。
ネメシス:「ヒト……なの……?」
『液体人間の融合体』としか言いようのない“モノ”が、近づいてくる。
ヒュプノス:「これは……『C.L.R』か……ッ!」
ゲオルギウス:「その通り。前回のは失敗作だったが……今度のはもっとヒドイ。……欲望そのもののような、卑しい存在だ」
“喰ろうてやろうか……”
ずるり……、とネメシスに這い寄っていく。
“心も体も辱めたあと、喰ろうてやろうか……”
“我が一部として、永遠を生きるか……”
“喰ろうてやろうぞ……”
“まこと……まこといい女じゃ……。うまそうだ……”
ぬるぬるした『手』を、ネメシスにからめていく。
ネメシス:「イ、イヤァッッ!!」
タナトス:「やめろォッ! このッやめろォォッ!!」
ガチャガチャと鎖が鳴る。こすれて、血がにじむ。
そのとき、ヒュプノスの手から冷気が放たれた。
凍りついた『C.L.R』が、たまらずネメシスから『手』を離す。
ヒュプノス:「いいかげんにしろ。──ゲオルギウス、こんなことが、お前のやりたかったことなのか?」
ゲオルギウス:「私じゃない、『彼ら』のやりたいことだ」
タナトス:「………………」
ゲオルギウス:「私が欲しいモノは……もう手に入れた」
アルゴスの鎖が断ち切られ、まだ子供の姿のアルゴスがゲオルギウスの手の中に落ちる。
ネメシス:「アルゴス! アルゴスを返しなさい!」
ゲオルギウス:「そうはいかない。……今、『混沌<カオス>』について研究していてね。何でも融合してみるのが楽しくてしょうがないのだ。『C.L.R』に『ネフィリム』、それから……『女神の心臓』を融合してみれば、いったいどうなるか……興味はないか?」
タナトス:「『女神の心臓』ッ! ユナを連れ去ったのはお前か! ユナはどこにいる!」
ゲオルギウス:「さあね、どこかに混ざっているのではないか?」
タナトス:「ゲオルギウスぅッ!」
ゲオルギウス:「私の出番はここまでだ。……あとは、そいつらがやりたいようにやる」
ヒュプノス:「……貴様……何を企む……?」
ゲオルギウス:「『混沌』から何が生じるか、見たいだけさ。──……このことは、私の『子供』たちには伝えないでおいてあげるよ。これは……『私』だけの思い出だ」
アルゴスを抱えたゲオルギウスが、扉の向こうに消える。扉が、閉まる。
“さあ……宴の始まりだ……”
僕たちは、『ヒーメル』たちの欲望と怨念の渦の中へ投げ込まれた。
僕たちは……呪われた。
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僕の記憶は、そこで途切れている。
次に覚えているのは……もう、ほんの100年ほど前のことからだけだ。
それが……僕にかけられた『呪い』だから。
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・テーレ1111 空中都市アールマティ 女神オファニエルの神殿の地下
フレイヴス:「ここか? お前のお仲間が『封印』されてるって場所は」
タナトス:「ああ」
フレイヴス:「“あの”儀式のときに呪われた、3人の『ネフィリム』のうちのひとりか……」
タナトス:「儀式?」
フレイヴス:「儀式というか、実験というか……『ヒトのはじまり』の話さ」
タナトス:「ヒト……南キャンバス大陸人……?」
フレイヴス:「『ネフィリム』の子供と『女神の心臓』を“核”とした『混沌のC.L.R』というべきもの──そこから分かれ、生まれたのがクックルックルーフとヒトゲノム──南キャンバス人だった。……ある意味、最も神に近い『クックルックルーフ』と、『ヒーメル』への潜在的恐怖心から空を飛ぶことを忘れた哀れな『ヒトゲノム』のはじまりの話だ」
タナトス:「………………」
フレイヴス:「で……誰がその儀式を行ったのか……そのデータだけが、どこにも残っていない」
タナトス:「………………」
フレイヴス:「──着いたようだ。確かに、強力な『封印』が施されているな」
扉の向こう……
この扉の向こうに、ネメシスがいる……
呪われ、封印され、魔力の『糧』とされてきた。
そうやって、数千年の時を生きてきた……ネメシス。
フレイヴス:「さ、いこうぜ──捕らわれの姫を助けに、な」
ネメシス……
僕たちの戦いは……またここから始まったのかもしれないね。


