リューセ:「お元気でしたかァ?」
タナトス:「おかげさまで、ね。──君たちは……元気、ってわけじゃなさそうだね」
リューセ:「そうなんですよ、ゼナは右手なくなるしゴーヴァは壊れるしリルルはケガするし……」
タナトス:「君も、人のことは言えないと思うけど?」
タナトスが手をかざすと、リューセの胸に六芒星のアザが浮かび上がった。アザはさらに広がり、肩や上腕部にまでルーン文字のような模様が広がっている。
リューセ:(服の肩ヒモをほどいて)「いつの間にこんなに……」
あまりに無防備なリューセの姿に、タナトスはあわてて目をそらした。
タナトス:「……見えそうだよ」
リューセ:「あうあう……(服を直してから)ルーベルさんの意識も戻らないし……」
タナトス:「だろうね。……あれだけの重傷だったんだから」
リューセ:「──で、何をご存知なんです?」
タナトス:「いや……今はまだ、知らなくていいことだから……」
リューセ:「ぶー、ご不満」(ふくれる)
タナトス:「さ、もうおやすみ……。いいこだから……」
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モトで『クーア』を渡したときが、4年ぶりの再会だった。
ずっと、待っていたんだ――再び、『時』が来るのを。
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・テーレ1136 空中要塞『メルカバー』 タナトスの間
タナトス:(剣に手をかけ)「ここまで、来てしまったね……。──君たちは……何のためにここまで来たんだい?」
リューセ:「アルバスを、取り戻すためです」
タナトス:「そうか……。(剣から手を離し)なら、少し昔話をしようか。──全てのはじまりは……一万年前の『女神殺し』だったのかもしれない。時は流れ……大きな分岐点、小さな分岐点、『時』はその流れを変えながら、現在<ここ>まで来た。そして……あるいは『世界』をゆるがすことになるかもしれない小さな事件が起こった」
リューセ:「……事件?」
タナトス:「10年前、アールマティの丘の上の、夕日の中で交わされた、小さな『出来事』……。──リューセ……君は、そこで幼いアルバスと出会った」
タナトスの目が、いとおしいものを見るように、細められる。
タナトス:「いや……君の本当の名は、『ソフィア』だ。女神オファニエルは『死ぬ』間際に自らの『力』を2つに分離させた──『再生<ビデオ>』を司る『クリシュナ』と、『消滅<デッド>』を司る『ソフィア』」
リューセ:「あの……私って、何なんだろう……」
タナトス:「君とアルバス──ふたりの『真実』は、ふたりの中にある。今は……アルバスを、取り戻しておいで」
「アルバスを取り戻すため」──君は、迷うことなくそう言った
リューセ……君はもう『リューセ』で……『ソフィア』じゃないのかな?
それとも……
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・テーレ1132 “始まりの地”イシュタル イシス通り
風の強い日だった。
アルバスに『終焉<デッド>』の力を渡し、代わりに『黄金の林檎』を受け取ったリューセを……タナトスはイシュタルの知り合いに預けることにした。
老人:「これはこれはタナトス様……おひさしゅうございます」
アールマティでフレイヴスの身の回りの世話をしていた元使用人だ。
タナトス:「宿泊施設を経営してると聞いていたけど……まさかこういうところとは思わなかったよ」
老人:「ほっほっほ。誰かがやらねばならぬことですよ。それに……ヒトは、『こういうコト』なしには生まれませんからなァ。――まあ、ほとんどおりませんが……本当に必要としている人もいるのですよ」
タナトス:「なるほど……奥が深い」
老人:「で……今日はどうされました?」
タナトス:「ああ、そうだった……。──この娘を預かってほしい」
タナトスは後ろに立っているはずのリューセに声をかけようとして振り返ったが……彼女の姿は見当たらない。
タナトス:「……あれ?」
老人:「もしかして、そのお嬢さんですかな」
老人が指差す方を見ると……リューセは椅子に腰掛け、すやすやと眠っていた。
タナトス:「やれやれ……」
老人:「はて、どこかで見たことがあるような……──おう、そうじゃ、神殿で見た女神様によう似とる」
タナトス:「その通りだよ。……もっとも、今は力も記憶もなくした女の子だけど」
老人:「それで、ここに?」
タナトス:「ああ。……いいかな?」
老人:「ええ、喜んで。子供のいないワシらに、いきなり孫ができましたな」
タナトス:「記憶を操作したばかりだから、まだときどき混乱することがある。僕のことも、多分覚えてない」
老人:「そうですか……。では、何か……」
タナトス:「いや、もう『お守り』はもらったみたいだから……」
リューセの胸元に目をやる。そこには、細い鎖につながれた赤い石の指輪が輝いている。
タナトス:「手紙を、残していくことにするよ」
「ソフィアを頼む」と書こうとして、手を止める。そして……
タナトス:「この娘の名前は……『リューセ』だ。僕がそう名付け、みんなにそう呼ばれて育ったんだから」
さようなら、ソフィア……
だけど僕はいつだって君の『騎士』……
そう……あのとき、ふたりで永遠を生きると決めたんだから……
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・4000年前 空中都市アールマティ 『女神の塔』最上階
幾本もの刃がアヴァロンの体を貫く。
ずっと一緒にいよう……
そう決めたのに……そう誓ったばかりなのに……
暗殺者たちが『消滅』していくのが、微かに見えた。
ソフィアの……『力』だ……
ここからじゃ顔も見えないけど、たぶん、彼女は泣いている……
アヴァロンは指先に力をこめようとした。が……もう、指そのものの感覚がなくなってきている。
ねえ……ソフィア……
僕は知ってるんだ……
『黄金の林檎』……『惑星EDEN』……
君が……女神だってこと……
『疫風』が強くなっていく。
怒らないで。悲しまないで。泣かないで。
僕が……僕が君をたすけるから……
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心地よい風を感じて、タナトスは目を開けた。
まるで、母親に髪をなでてもらっているような……そんなかんじ。
ソフィアの『疫風』──
この上の階に、ソフィアがいるんだろうか。
誰か、彼女の傍にいるんだろうか。
『疫風』を止める方法。『力』の制御。女神の復活。
アルゴスが言っていた。
女神復活に必要なものは3つ──『心』と『身体』と『核』
『心』とはソフィアとクリシュナのこと。
『身体』はアムリタから精製できる。
あとは……『核』だ。
目がかすむ。
治癒能力の高い『ネフィリム』の肉体でも、さすがに限界のようだ。
そのとき──呼ぶ、声がした。
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それは、奇跡だったのかもしれない。
アヴァロンとタナトス、ひとりの少女を思うふたつの『心』と『身体』が──ひとつになった。
アヴァロンの肉体と、『ネフィリム』の治癒能力。
タナトスの使命と、アヴァロンの心。
ソフィア:「アル……?」
ソフィアの声に、『アヴァロン』は振り返った。琥珀色のはずの瞳は……なぜか蒼い。
『アヴァロン』:「ソフィア……そこで待ってろ。『俺』が、何とかするから」
ソフィア:「アル……私……」
『アヴァロン』:「いいから、ソフィアは寝てろよ」
手をかざす。
意識を無くし崩れ落ちたソフィアの身体を支えると、『アヴァロン』はそっと彼女を床に寝かした。
後は……『僕』がやる……
『アヴァロン』:「ごめんねソフィア……。──僕はもう、『タナトス』なんだ……」
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・アールマティ 『女神の塔』前
コツコツと、暗がりから足音が響いてくる。
ユナは、扉の奥に目をこらした。
やがて姿を現したのは……大剣を手にしたアヴァロンだった。自分の血なのか他人の血なのか、衣服は真っ赤に染まっている。
ユナは駆け寄ろうとして……少しよろけた。
アヴァロンは歩調をゆるめることなく近づいてくる。
そして──血で赤く染まった刃がユナの腹部に吸い込まれていった。
ユナとアヴァロンの身体が重なり合う。剣は、根元まで突き刺さっていた。
荒い、彼の呼吸と、自分の呼吸。
ユナ:「おう……じ……」
かすんでいく視界。愛しい人の顔。蒼い瞳……
ユナは自らの血の海に倒れ込み……二度と目を開くことはなかった。
タナトス(アヴァロン):「………………」
アヴァロン──『アヴァロン』と『タナトス』の融合体──はユナの身体から無造作に剣を抜いた。
ユナの身体から、温かな血があふれる。
それと同時に──腹部から、コロリと何かが転がり落ちた。
タナトス:「これが……『女神の心臓』か……」
女神殺害後、『ヒーメル』の司祭の一族がその体内に隠し持ってきた女神の『核<コア>』
タナトスは紅い宝玉を拾うと、ユナの傍にしゃがみこんだ。
タナトス:「タナトス、なんてことを……。ユナ、今治療するから……」
ポタポタ、と地面に赤い染みが広がっていく。
ユナの血ではなく──タナトスのものだ。
タナトス:「さすがに……ムリ、か……」
『ネフィリム』の治癒力をもってしても、『アヴァロン』の傷を完全に癒すことはできなかったのだ。
ユナの治療をして……ソフィアの…………ソフィ……
ぐらり、と視界が傾く。
ユナ……ごめん……


