MOND REPLAYV外伝:06

・テーレ1136 エスペルプレーナ リューセの部屋

リューセ:「お元気でしたかァ?」

タナトス:「おかげさまで、ね。──君たちは……元気、ってわけじゃなさそうだね」

リューセ:「そうなんですよ、ゼナは右手なくなるしゴーヴァは壊れるしリルルはケガするし……」

タナトス:「君も、人のことは言えないと思うけど?」
 

 タナトスが手をかざすと、リューセの胸に六芒星のアザが浮かび上がった。アザはさらに広がり、肩や上腕部にまでルーン文字のような模様が広がっている。
 

リューセ:(服の肩ヒモをほどいて)「いつの間にこんなに……」
 

 あまりに無防備なリューセの姿に、タナトスはあわてて目をそらした。
 

タナトス:「……見えそうだよ」

リューセ:「あうあう……(服を直してから)ルーベルさんの意識も戻らないし……」

タナトス:「だろうね。……あれだけの重傷だったんだから」

リューセ:「──で、何をご存知なんです?」

タナトス:「いや……今はまだ、知らなくていいことだから……」

リューセ:「ぶー、ご不満」(ふくれる)

タナトス:「さ、もうおやすみ……。いいこだから……」

 モトで『クーア』を渡したときが、4年ぶりの再会だった。

 ずっと、待っていたんだ――再び、『時』が来るのを。

・テーレ1136 空中要塞『メルカバー』 タナトスの間

タナトス:(剣に手をかけ)「ここまで、来てしまったね……。──君たちは……何のためにここまで来たんだい?」

リューセ:「アルバスを、取り戻すためです」

タナトス:「そうか……。(剣から手を離し)なら、少し昔話をしようか。──全てのはじまりは……一万年前の『女神殺し』だったのかもしれない。時は流れ……大きな分岐点、小さな分岐点、『時』はその流れを変えながら、現在<ここ>まで来た。そして……あるいは『世界』をゆるがすことになるかもしれない小さな事件が起こった」

リューセ:「……事件?」

タナトス:「10年前、アールマティの丘の上の、夕日の中で交わされた、小さな『出来事』……。──リューセ……君は、そこで幼いアルバスと出会った」
 

 タナトスの目が、いとおしいものを見るように、細められる。
 

タナトス:「いや……君の本当の名は、『ソフィア』だ。女神オファニエルは『死ぬ』間際に自らの『力』を2つに分離させた──『再生<ビデオ>』を司る『クリシュナ』と、『消滅<デッド>』を司る『ソフィア』」

リューセ:「あの……私って、何なんだろう……」

タナトス:「君とアルバス──ふたりの『真実』は、ふたりの中にある。今は……アルバスを、取り戻しておいで」
 

 「アルバスを取り戻すため」──君は、迷うことなくそう言った

 リューセ……君はもう『リューセ』で……『ソフィア』じゃないのかな?

 それとも……

・テーレ1132 “始まりの地”イシュタル イシス通り

 風の強い日だった。

 アルバスに『終焉<デッド>』の力を渡し、代わりに『黄金の林檎』を受け取ったリューセを……タナトスはイシュタルの知り合いに預けることにした。
 

老人:「これはこれはタナトス様……おひさしゅうございます」
 

 アールマティでフレイヴスの身の回りの世話をしていた元使用人だ。
 

タナトス:「宿泊施設を経営してると聞いていたけど……まさかこういうところとは思わなかったよ」

老人:「ほっほっほ。誰かがやらねばならぬことですよ。それに……ヒトは、『こういうコト』なしには生まれませんからなァ。――まあ、ほとんどおりませんが……本当に必要としている人もいるのですよ」

タナトス:「なるほど……奥が深い」

老人:「で……今日はどうされました?」

タナトス:「ああ、そうだった……。──この娘を預かってほしい」
 

 タナトスは後ろに立っているはずのリューセに声をかけようとして振り返ったが……彼女の姿は見当たらない。
 

タナトス:「……あれ?」

老人:「もしかして、そのお嬢さんですかな」
 

 老人が指差す方を見ると……リューセは椅子に腰掛け、すやすやと眠っていた。
 

タナトス:「やれやれ……」

老人:「はて、どこかで見たことがあるような……──おう、そうじゃ、神殿で見た女神様によう似とる」

タナトス:「その通りだよ。……もっとも、今は力も記憶もなくした女の子だけど」

老人:「それで、ここに?」

タナトス:「ああ。……いいかな?」

老人:「ええ、喜んで。子供のいないワシらに、いきなり孫ができましたな」

タナトス:「記憶を操作したばかりだから、まだときどき混乱することがある。僕のことも、多分覚えてない」

老人:「そうですか……。では、何か……」

タナトス:「いや、もう『お守り』はもらったみたいだから……」
 

 リューセの胸元に目をやる。そこには、細い鎖につながれた赤い石の指輪が輝いている。
 

タナトス:「手紙を、残していくことにするよ」
 

 「ソフィアを頼む」と書こうとして、手を止める。そして……
 

タナトス:「この娘の名前は……『リューセ』だ。僕がそう名付け、みんなにそう呼ばれて育ったんだから」
 

 さようなら、ソフィア……

 だけど僕はいつだって君の『騎士』……

 そう……あのとき、ふたりで永遠を生きると決めたんだから……

・4000年前 空中都市アールマティ 『女神の塔』最上階

 幾本もの刃がアヴァロンの体を貫く。
 

 ずっと一緒にいよう……

 そう決めたのに……そう誓ったばかりなのに……
 

 暗殺者たちが『消滅』していくのが、微かに見えた。
 

 ソフィアの……『力』だ……

 ここからじゃ顔も見えないけど、たぶん、彼女は泣いている……
 

 アヴァロンは指先に力をこめようとした。が……もう、指そのものの感覚がなくなってきている。
 

 ねえ……ソフィア……

 僕は知ってるんだ……

 『黄金の林檎』……『惑星EDEN』……

 君が……女神だってこと……
 

 『疫風』が強くなっていく。
 

 怒らないで。悲しまないで。泣かないで。

 僕が……僕が君をたすけるから……

 心地よい風を感じて、タナトスは目を開けた。

 まるで、母親に髪をなでてもらっているような……そんなかんじ。

 ソフィアの『疫風』──

 この上の階に、ソフィアがいるんだろうか。

 誰か、彼女の傍にいるんだろうか。

 『疫風』を止める方法。『力』の制御。女神の復活。

 アルゴスが言っていた。

 女神復活に必要なものは3つ──『心』と『身体』と『核』

 『心』とはソフィアとクリシュナのこと。

 『身体』はアムリタから精製できる。

 あとは……『核』だ。
 

 目がかすむ。

 治癒能力の高い『ネフィリム』の肉体でも、さすがに限界のようだ。
 

 そのとき──呼ぶ、声がした。

 それは、奇跡だったのかもしれない。

 アヴァロンとタナトス、ひとりの少女を思うふたつの『心』と『身体』が──ひとつになった。

 アヴァロンの肉体と、『ネフィリム』の治癒能力。

 タナトスの使命と、アヴァロンの心。
 

ソフィア:「アル……?」
 

 ソフィアの声に、『アヴァロン』は振り返った。琥珀色のはずの瞳は……なぜか蒼い。
 

『アヴァロン』:「ソフィア……そこで待ってろ。『俺』が、何とかするから」

ソフィア:「アル……私……」

『アヴァロン』:「いいから、ソフィアは寝てろよ」
 

 手をかざす。

 意識を無くし崩れ落ちたソフィアの身体を支えると、『アヴァロン』はそっと彼女を床に寝かした。
 

 後は……『僕』がやる……
 

『アヴァロン』:「ごめんねソフィア……。──僕はもう、『タナトス』なんだ……」

・アールマティ 『女神の塔』前

 コツコツと、暗がりから足音が響いてくる。

 ユナは、扉の奥に目をこらした。

 やがて姿を現したのは……大剣を手にしたアヴァロンだった。自分の血なのか他人の血なのか、衣服は真っ赤に染まっている。

 ユナは駆け寄ろうとして……少しよろけた。

 アヴァロンは歩調をゆるめることなく近づいてくる。

 そして──血で赤く染まった刃がユナの腹部に吸い込まれていった。

 ユナとアヴァロンの身体が重なり合う。剣は、根元まで突き刺さっていた。

 荒い、彼の呼吸と、自分の呼吸。
 

ユナ:「おう……じ……」
 

 かすんでいく視界。愛しい人の顔。蒼い瞳……

 ユナは自らの血の海に倒れ込み……二度と目を開くことはなかった。
 

タナトス(アヴァロン):「………………」
 

 アヴァロン──『アヴァロン』と『タナトス』の融合体──はユナの身体から無造作に剣を抜いた。

 ユナの身体から、温かな血があふれる。

 それと同時に──腹部から、コロリと何かが転がり落ちた。
 

タナトス:「これが……『女神の心臓』か……」
 

 女神殺害後、『ヒーメル』の司祭の一族がその体内に隠し持ってきた女神の『核<コア>

 タナトスは紅い宝玉を拾うと、ユナの傍にしゃがみこんだ。
 

タナトス:「タナトス、なんてことを……。ユナ、今治療するから……」
 

 ポタポタ、と地面に赤い染みが広がっていく。

 ユナの血ではなく──タナトスのものだ。
 

タナトス:「さすがに……ムリ、か……」
 

 『ネフィリム』の治癒力をもってしても、『アヴァロン』の傷を完全に癒すことはできなかったのだ。
 

 ユナの治療をして……ソフィアの…………ソフィ……
 

 ぐらり、と視界が傾く。
 

 ユナ……ごめん……



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