もう何人殺してきただろう……
騎士も、兵士も、男も、女も、子供も。
あらゆる『ヒーメル』の首を刈り、胴をなぎ、腹を刺し貫いた。
もう止まらない……止められない……
ヒュウ……今ならお前の気持ち、少しは解る気がする……
国中を、『疫風』が吹き荒れていた。
“崩れた”同族を踏みつけながら、たくさんの『翼あるもの』たちが俺を襲った。
命を延ばすために……生きるために……わずかな希望を信じて……
『ネフィリムの首を差し出した者には、特別な延命処置を』──そんな言葉を信じて……
刃物を手にした女や子供が、何人も、何人も、俺に切りかかってきた。
女たちは、ただ、自分の子供を救いたかっただけなんだ。
子供たちは、『C.L.R』に融合してもらえなかったかわいそうなヤツらなんだ。
もう……もう……
……死んでしまえ。
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(回想)空中都市アールマティ 魔法科学研究所
タナトス:「ゲオルギウス……宰相やめるって、ホントか?」
ゲオルギウス:「ああ、本当だよ、タナトス。……この国は、どうやら私を必要としてないようだからね……」
タナトス:「そんなの……ダイモンのじじいのタワゴトだろ……?」
ゲオルギウス:「あは……あははははは……」
タナトス:「どうした?」
ゲオルギウス:「いやなに、ちょっとした思い出し笑いさ……。この間、どこぞの貴族のババアが見合い話を持ってきてな、『ゲオルギウス様、お似合いだと思いますよ』とか言うんだ。──……結婚したって、子供なんかできやしねえよ……」
タナトス:「ゲオルギウス……」
ゲオルギウス:「タナトス、私もどうやら『ヒーメル』を許すことができそうにないよ。あはははははは……!」
タナトス:「………………」
ゲオルギウス:「なあタナトス、永遠の命ってどんなかんじだ? 教えろよ。刺されても死なないのか? なあ? 教えろよ」
タナトス:「お前……どうしちまったんだよ……」
ゲオルギウス:「あははははは……! ……生きてやる……」
俺は……語り継ぐ……俺の想いを……永遠に……
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いつの間にか……腹に大振りのナイフが突き刺さっていた。
タナトス:「誰だよこれ……。結構……深手なんじゃないかァ……これ……」
意識が朦朧とする。
ここ、どこだ……?
見覚えのない場所。……いや、ある、気もする。
あ……ここ、『女神の塔』のどこかだな……
いつの間に塔にたどりつき、どうやってここまで登ってきたのか……。
なぜ、ここに来たのか……。
傍に……少しでも傍にいたかったんだ……
俺は……ソフィアの騎士だから……
混濁する意識。あいまいな心理。
深い『海』の底へ、タナトスは落ちていく──
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・テーレ1136 “最後の楽園”ニャルラトホテプ 『女神の塔』最下層(最上階)
アルゴスが消えた後も、タナトスはしばらく放心したようにたたずんでいた。
やがてのろのろと手をのばし、台座にはめ込まれた『箱』を手にした。
『パンドラの匣』……
覚えてる……
アヴァロン王子の『黄金の林檎』の中の記憶
それははるか遠く……──はるか故郷の、物語──
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・1万年前 惑星EDEN
そこは、緑に包まれた楽園だった。
遠い遠い、女神が統治する星――EDEN。
女神と、ヒーメルと、ネフィリムが共に暮らす場所。
ヒーメルは、女神とともに。ネフィリムは、ヒーメルとともに。
しかし……平和は長くは続かなかった。
ヒーメルによる女神殺し。
ネフィリムの暴走。
楽園の崩壊……
衛星軌道上の11隻の『船』は、故郷を捨て、新たな星を求める旅に出た。
その中に、パンドラという名の少女がいた。
オファニエルに仕えていた、ヒーメルの神官だ。
彼女の手の中には、『箱』があった。
オファニエル:「これを……お願いね……」
オファニエルから託された『箱』
その中には、『再生』と『消滅』、2つの力の結晶体が入っている。
パンドラ:「オファニエル様……」
パンドラは知らない。彼女の『体内』に、『女神の心臓』が眠っていることを。
『船』は進む。パンドラという名の少女を乗せて。
『黄金の林檎』──それは『想い出』を運ぶもの
アヴァロンが受け取り、アルバスに引き継がれ……
リューセの手に渡り、また、アルバスの元へ帰ってきた。
『全ての知恵』を内包する禁断の果実。
連綿と続く『ヒーメル』の歴史を内包する黄金の果実。
「こいつがただの『知恵の実』なら捨ててしまってもよかったんだが……御先祖様の『想い出』を捨てるワケには、いかないからな。……これに自分の家族の『記憶』が刻まれるならなおさらだ」
昔、フレイヴスはそう言って笑った。
アルバス……君はこの『林檎』をどうするんだろう……?
心配はしてないけど……楽しみだよ
時が過ぎて君が大人になって……そのとき、その横にはリューセがいるんだろうか……
リューセ……君はどう思う?
リューセ──僕の大事な『娘』


