ACT16.0[贖罪]05

アリア:「愚かなのはあたしたちじゃない、この人たちじゃない。……あなただよ」

ビオ:(胸を押さえて立ち上がり)「正直、話の内容はさっぱりだけどな。……だけど俺は、お前を殺すぜ」

ボルサオ:「他人の声に耳を傾けることもなく、解ろうともせず、自らの理解の範疇にないものはすべからく力で排除しようとする、その短絡的な行動……実に愚かだ」

アリア:「そんなこと、他の人のこと全然考えてないアナタに言われたくない!」

ビオ:「そうだ! 俺もバカだがお前はもっと馬鹿だ!」

アリア:「神に頼ろうとするのと、あたしたちが<楽園>を目指すことは……同じなのかもしれない。でも……こんなやりかたはおかしいよ。……おかしいよ。止めなきゃ、って思うよ」

ボルサオ:「だから……私を殺すと?」

アリア:「それしかないなら」
 

 赤い雨が、人のぬくもりを持つ雨が、頬を打つ。頬を伝う。

 透明の膜がアリアの瞳を覆う。やがてそれは雫となり、重力に逆らえずに流れ落ちた。

 アリアは泣いていた。

なんなんだ……
 

そう思う。
 

なんなんだ、この涙は……

ヴァンダイク:なるほど……。普通は自らをきれいにすることによって神の元へいこうとするのだが……逆に、穢れることによって神を呼ぼうとしているのだな。

リトナ:「自らが神になればいいんだよ」という決定的に間違ったことを言うのはどうかな。

ゴルディッシモ:どうせ滅びる世界なら、いっそ率先して滅んでみるのはどうかな。

ビオ:お前らは黙ってろ(笑)。──だが確かに、こいつの言ってることは「僕は駄目なヤツだから誰か助けてよ」っていう戯れ言だ。

キュア:甘えてるのね。──正直、何かを知りたいという気持ちはよく分かる。でも……方法は共感できない。

ビオ:女の子のアソコがどうなってるか知りたいからって、襲ったらダメってことだ。

アリア:ビオ……それは何だかなぁな例えな気が。

キュア:それに、最終的には神に甘えてるだけだしね。

リトナ:母親の気を引こうとしてわざと転んで怪我をする、子供と一緒だ。

アリア:「世の中に正しいことがあるのだとすれば……あなたの考えが間違ってると思うこと、そしてこんなことをやめさせること──これは、絶対正しいことだと思う」

ボルサオ:「あなたが正しい? 私が間違ってる? ……あなたが、正しいのですか? この星を、救えるのですか?」

アリア:「あたしは、星を救うために少なくともこんなことはしない。それに……アンタは『星が救いたい』んじゃくて、『興味がある』だけなんでしょお!」

リトナ:神に救ってほしいのかな? それともただ見たいだけ?

アリア:さっきの言葉と矛盾するけど……どっちもあるんだと思う。

キュア:神が現れれば無条件に救ってくれると信じてるんじゃ。

アリア:あたしは……この星の、この世界のほんの一部分しか知らないけど……<真なるアルカディア>を目指すことと矛盾してるかもしれないけど……何かに頼り切るんじゃなくて、自分たちの力で何とかするべきだと思う。

ヴァンダイク:ワシの考えとしては──

GM:うん。

ヴァンダイク:お前の話はよく解った、と。だから、死ね。

一同:おう?!(笑)

ヴァンダイク:この星がどうなろうと知らんが、お前は<帝国>にとって障害となるから、死ね。

ゴルディッシモ:シンプルだ。

ビオ:俺はもっとシンプルだぞ。──よく分からんが、死ね(笑)。

リトナ:オレは……このまま放っておいてもいい気がするな。

アリア:え?

リトナ:このまま放っておいても、多分ボルサオは死ぬ。

アリア:でも……もし生き残ったら、第二、第三のこういう悲劇が起こるかもしれないし……。

リトナ:オレはこの光景もアリだと思う。

キュア:この……『血の雨』が?

リトナ:食料が少なくなれば人は減る。これは当然のことだ。

アリア:これは、人のDNAが引き起こす『集団自殺プログラム』だってこと?

リトナ:そう考えてもいいだろう。

キュア:引き金を引いたのはボルサオだけどね。

ビオ:引き金を引かなければ、弾は出ないんだぜ。

ヴァンダイク:そもそも弾をこめなければいいのだ。

リトナ:そして……引き金を引いてしまった以上、もうどうしようもない。

GM:さて。言いたいことは言えたかな?

アリア:うん。あの世で神に会ってこい、ってかんじかな。

リトナ:ボルサオに「集団殺戮の真っ只中に飛び込んでいくのはどう?」って提案してみる。

GM:それは魅力的な意見な気もするなぁ。……でも、ボルサオは死にたいワケではないしね。(……でも、『血の雨』の真っ只中に自分をさらすというのは……とても……)
 

 ボルサオは……<太極樹>の根元から、一歩踏み出した。
 

ビオ:「待てよ」
 

 ビオが、立ち塞がる。
 

リトナ:「ビオさん、下手に関わってケガしても損だよ?」
 

 リトナが言う。

 赤い雨は、まだ降り続く。

 ビオのアックスハルバートが空をなぐ。

 ボルサオの右腕が根元から飛び、肩口から赤いものが噴き出す。

 口元が、薄い笑みの形を作り出す。
 

ボルサオ:「なぜ<赤>を忌み嫌う。……アナタも、こちらに来ればいいのに」
 

 ビオの頬がぴくっと引きつる。
 

ビオ:「ワケ分かんねーよ」
 

 ハルバートが斜めに振り下ろされる。

 驚くほど大量に噴き出した『血』が、ビオの顔を赤黒くまだらに染める。

 それは刹那の思考の流れ。

 赤い血のスクリーンに映る幻。

 脈打つ小さな心臓。

 爆発しそうになる感情と心と気持ちと肉体と狂気を押さえてくれていたもの。

 血の流れによって血の結界と成し血の誘惑を遠ざけていたもの。

 脈打つ小さな心臓。
 

ビオ:『こんなとこにいたのかよ……沙枝』

 あたたかい血が、ビオの顔を更に赤く染める。
 

ボルサオ:「赤い……赤いなぁ……。何という穢れ……。なん、と……甘い……」
 

 ハルバートの切っ先がボルサオの胸を貫く。それがトドメの一撃。
 

ボルサオ:「ああ……──」
 

 最期の言葉。聞き取ることもできなかったそれは、人の名か、それとも<神>の名か。
 

 動かなくなったボルサオに、リトナがちょこちょこと歩み寄る。
 

リトナ:「──神は見れた?」
 

 ボルサオは答えない。彼はもう、死んでいたから。
 

リトナ:「世の中、そんなもんだよ」
 

 彼の頬を、透明な液体が流れ落ちる。

 雨だった。

 天が流す、無色の涙だ。
 

 ──赤い雨は、やんでいた。



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