OP.1[愛の温度]-Wish you were here- 08

フウゲツ:(縄で縛りながら)「これで『仮面』は全部か」

レイチェル:(気絶したエミリーを縛りながら)「そのようだ」

リトナ:物陰から出てこよう。ミケと一緒に。

フウゲツ:「……で。誰か何がどうなってるのか説明してくれ。よく分からないまま攻撃してしまった」

レイチェル:「実はエミリーは二重人格でかくかくしかじか……」

フウゲツ:「『仮面』をエミリーが……? 確かエミリーがアーケインにいるときから『仮面』は悪さをしてたんだよな? 遠隔操作なのか……?」

レイチェル:「そこまでは分からない」

シュリ:エミリーエミリーと言ってるけど、実はエミリーではないんだよね。

GM:そう。補足説明しておくと、エミリーはもうひとりの『エミリー』を姉として認識している。エミリーは元々『恋人と一緒にお金を持ち逃げした姉を探す』という目的でアーケインまで流れ着いたのだけど、その『姉』というのが『エミリー』であり……つまりお金を持ち逃げしたのはエミリー本人であり──

シュリ:その一緒に逃げた恋人というのが、寮の地下にあったワイン漬けの死体。

ユリア:なるほど、それならあのワインをエミリーが「うまいうまい」と飲んでいたのも、肉ベッドも納得れすね。

プレイヤーP(ここから参加):飲んどらんし、肉ベッドも嘘だ。

GM:じゃー、そろそろ出番なので、準備してくれい。

シュリ:ただしエミリーとしてではなく、ドモ・ルールとしてね。

プレイヤーP:そうなんか?

GM:(そうなんよ(笑))

 <扉>をくぐったとき、スティールの身体から離れたのには気づいていた。

 だが、そこからどこをどう彷徨ったのかは、何も覚えていない。

 深く深く、眠っていたのだろう。

 そして、意識が覚醒していく。
 

GM:さてシュリ。気絶したエミリーの左手に、魚をかたどった金色の趣味の悪い指輪がはめられているのに気づく。

シュリ:そんなバカな。そんなバカな。

GM:てことで、ドモ・ルールとして覚醒してください、エミリー。

プレイヤーP(ドモ・ルール):いきなり無理難題を。

GM:気がつくと、縄で縛られて押さえつけられている。

リトナ:GM、ドモさんに気づいていい?

GM:いいよ。

ドモ・ルール:こちらも猫に気づいてよいか?

GM:いいよ。

ドモ・ルール:で、今リトナはどっちなんだ?

GM:しゃべれないフリをしている猫。

リトナ:それはおかしい。普通猫はしゃべれないし、オレは普通の猫だ。

エミリー(ドモ・ルール):「おいネコ。とりあえず説明してくれ、説明」

フウゲツ:「………………」

レイチェル:どういう状況なのだ。

GM:エミリーの中の第3の人格が目覚めた(笑)。

エミリー(ドモ・ルール):「この新しい身体についてはまあいいんだが、どうしてこういう状況になったのか説明頼む」

フウゲツ:「何を言ってるんだエミリー……?」

ユリア:「とうとう」

フウゲツ:「とうとうイッてしまったか」

リトナ:初めて見るものの匂いを確かめるようにしてエミリーに近づいて、小声で伝えよう。

ユリア:耳の匂いを嗅ぐように。

リトナ:「ドモさんの宿主が複雑な事情の持ち主で、悪いヤツらしくって、その結果こういうことになってる。オレもさっき合流したばっかりだから、詳しいことはよく分からない」(ぼそぼそ)

エミリー(ドモ・ルール):まあ、この宿主がどうなろうと関係はないがな。……焼かれたりしないかぎりは。

一同:(苦笑)

エミリー(ドモ・ルール):埋められる程度なら、何とでもなるしな。

ユリア:魔女は生きたまま火あぶりに!

エミリー(ドモ・ルール):やめれ。

リトナ:それと……まだ死んでないよ、宿主。

エミリー(ドモ・ルール):わーっとるわい。

GM:(うーん……自分で振ったネタながら、エミリーの行く末に不安が……)

エミリー(ドモ・ルール):ま、しばらくはおとなしくしておくことにしよう。エミリーという名前なんだということだけ認識。

リトナ:オレは飽きたフリしてレイチェルの足元に戻る。……この女さえ安心させておけば、このパーティーは何も気づかないはず。オレたちの正体をまだ知られたくない。
 

 んで。
 

フウゲツ:なんか……事件が解決してしまった気がするぞ。

ユリア:そうれすね。いろいろ忘れてることがある気もするれすが。

フウゲツ:忘れてることがある気もするが(笑)、とりあえずカゴルマの街へ戻ろう。

レイチェル:「待ってくれ。(エミリーに)──もうひとり、行方不明のままの人がいる。その人はどこにいる」

エミリー(ドモ・ルール):「行方不明? 何のことだかさっぱりなんだが」(←プレイヤーも途中参加のため、さっぱり話の内容を理解していない)

レイチェル:信じられない、という顔をする。

フウゲツ:……エミリー、ゆっくり養生するか?

レイチェル:どうも様子がおかしい……。

ユリア:「どうやらエミリーはおかしくなってしまったようれす。こっちの『仮面』に聞いた方がいいんじゃないれすか? 実行犯だし」

フウゲツ:「それは建設的な意見だ。……だがそれも、街に戻ってからでいいだろ」

シュリ:「あたし……」

フウゲツ:「ん?」

シュリ:「できればエミリーと一緒にいたくない。……話したくない。……見たくない」

エミリー:「随分な言われ様だ。……何かトラウマでも刺激された?」

GM:(コイツ……ワザと言ってんじゃ……)

シュリ:(一瞬カッとなった後)……何も答えない。

フウゲツ:(ふう、と息をついて)「俺とシュリはメイリアと先に帰るから、レイチェルとユリア、エミリーと『仮面』を連れて──……って」
 

 レイチェルとユリア、ふたりともフウゲツの話を聞いていなかった。まるで遠くを見るめるような、何かの声に耳を傾けるような、そんな表情。
 

フウゲツ:(エミリーの次はこのふたりか……?)「どうかしたか?」

ユリア:(はっと我に返って)「いえ……今はいいれす」

フウゲツ:「? レイチェルは?」

レイチェル:「私は……ここに残る。奥で、待っている者がいる」

フウゲツ:「待っている者……? 敵か?」

レイチェル:「いや……『同胞』だ。──たぶん」

フウゲツ:「一緒にいこうか?」

レイチェル:「いや。今は、少しでも早くシュリを休ませてあげて。森の奥へは私ひとりでいく」

フウゲツ:「分かった……。……とすると、この『仮面』をどうやって運ぶかだな」

メイリア:「考える必要はないみたいですよ」

フウゲツ:「ん?」

メイリア:「……もう死んでます」
 

 レイチェルは『沈黙の森』の奥へ。

 フウゲツ、シュリ、ユリア、メイリアはカゴルマの街へ。エミリーはユリアが担ぎ、その足元にはリトナとミケの姿がある。
 

フウゲツ:「それじゃレイチェル、気をつけて」

レイチェル:「そちらも。まだ『仮面』の残党がいるかもしれない」

フウゲツ:「シュリ……ひとりで歩けるか?」

シュリ:「そのくらいは……何とか」

フウゲツ:「早く帰ろう。カゴルマにもだけど……アーケインに」
 

 ──もう俺たちの居場所は、あそこしかないから。
 

 彼らはまだ知らない。

 道が、少しずつ分かたれていくことを。

 その先に、小さな再会と小さな目覚めと小さな悟りが待っていることを。

 春だというのに、厚く雲が立ち込めた肌寒い日となった。

 まだ昼下がりではあったが、リリアはロウソクに火を灯し、礼拝堂へと入った。

 今日は礼拝堂には誰もいない。ただ『仮面のもの』の──Gシリーズのなれの果てが静かに安置されているだけ。

 Gシリーズについては、母と姉が死んだ後に随分調べた。
 

「どうしてここまで……こんな姿になってまで……」
 

 胸の前で十字を切る。
 

「もう、倒すべき『神』などいないのに……」
 

 そのまま、リリアは長い祈りを捧げた。ロウソクの炎がゆらめき、ジジ……と音を立てる。
 
 

「誰に、祈っているんだ……?」
 
 

 礼拝堂の入り口に、男の姿があった。扉にもたれかかるように立っている。

 アーケインから来た自警団のひとり。名前は……確か、ブルー。

 ……いや、リリアは彼を知っている。ずっと前から。
 

「もうよろしいのですか」

「ああ。……まるで、長い夢から目が覚めたような気分だ」
 

 確かに、この街に来たときよりも口調がしっかりしているし、目の焦点も定まっている。

 彼が言うように……まるで、たった今目が覚めたみたいに。
 

「答えろ。……誰に、祈る?」

「もちろん……神に」

「『神』か。……『神』になんて、祈るもんじゃない。『神』は……倒すべきものだ」

「母と……同じようなことを言うのですね」
 

 「ふん……」と男は笑う。荒い息を吐き、胸を押さえ、扉を支えとして立ち、リリアを見据えている。
 

「それが……俺たちの……存在理由だ……。俺は……殺すぞ、『神』を」
 

 一言ずつ、しぼり出すような声。一歩ずつ、祭壇へ、リリアの方へ歩み寄る。
 

「いいえ。……いいえ、それは違います────ガルフ=プルーシャン」
 

 ブルーの目が見開かれた。噛みしめた奥歯から笑いが漏れる。少しずつ。少しずつ。
 

「は……ははは……はははっ、はははははは!!!」
 

 前髪に隠れた翡翠色の瞳に暗い炎が宿る。
 

「オレはG-7だ、リリア=リーベンガード」
 

 そのとき──扉がギイと鳴った。ふたりの視線がそちらへ注がれる。

 そこに立っていたのは、瑠璃色の髪の少女だった。
 

「……ラズリ…………?」
 

 ブルーの──ガルフ=プルーシャンの顔が泣きそうに歪んだ。
 

「あ、あああ……ああああああああああッッ……!!!」
 

 咆哮。

 壁がビリビリと震える。風が吹き荒れ、祭壇もタペストリーも調度品も何もかも吹き飛ばす。

 そして……風が収まったとき、ガルフの姿はなかった。
 

「今の……って……ガルフお兄ちゃん……?」

「ええ……」
 

 かろうじて息を吐くように返事をし、リリアはその場にへなへなと座り込んだ。

 瑠璃色の髪の少女──トパーズがあわてて駆け寄る。
 

「大丈夫?」
 

 リリアはうなずく。
 

「どうして……ここに?」

「うん……『雪の神子』様に言われて来たんだけど……」
 

 ぽりぽりと頬をかき
 

「えへへ……遅かったみたい……」
 

 少女は、力なく笑った。
 
 

 メイリアたちが礼拝堂に戻るまでには、もう少し時間が必要だった。
 

 To be Continued...
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